待機児童数は親が当局に登録した数だが、多くの親は登録しないからである。
例えば、どこかの町の保育所に五人受け入れ枠ができたとする。
三O人ぐらいのお母さんが殺到するが、幸運にも入所できた五人以外の二五人はあぶれることになる。
その中に数人、私だって税金を払っているというお母さんがいて、区役所へ行って登録する。
これが待機児童だ。
ほとんどのお母さんは登録しても順番が回ってこないことが分かっているから登録しない。
このお母さんたちも仕事をしたいから、無認可の保育所でもいいから預かってもらうとか、ベビ−シッタ−を頼むとか、田舎から母親に出てきてもらうとかとして、何とか切り抜ける。
これが本当の待機児童なのだが、その数字は行政の場には出てこないのである。
先述のように、無認可保育所にやむを得ず通っている児童が二O数万人いるわけで、待機児童が二万六000人というのは、どう考えてもつじつまが合わない。
本当はこの一O倍くらいはいて、そのほとんどは東京、横浜、大阪、神戸などの大都市に集中している。
従って大都市というのは、子育て支援インフラが極端に不足している地域だと言わざるを得ない。
年齢分布から言、っと、待機児童は圧倒的に01二歳児である。
これは、先にみた年齢別の保育所利用児童の事情と同じである。
内訳をみると、O歳児は育児休暇のため相対的に低く、約一割(二・一%)だが、一歳以上になると育児休暇はほとんどなくなるから皆働きたいし、働かないと家計が苦しい人も多くなり、約六割(五六・七%)の人が待機する。
三歳以上になると、先ほどみたように四割ぐらいの児童は保育所に入れるようになるので、待機率は約三割合一二・二%)に下がるという構造になっている。
保育の時期が過ぎ、幼稚園や学校に通い出すと、今度は「放課後問題」が待っている。
幼稚園や小学校低学年は午後二時あるいは三時には終わってしまう。
フルタイムで働いている親は普通六時まで仕事をしているから、帰ってくるのは七時や八時になる。
多少とも残業があれば、九時や一O時になることもあるだろう。
「放課後問題」とは、親が帰ってくるまでの数時間を子供たちがどうやって過ごせばいいかという問題である。
これは大きな問題である。
幼稚園児の場合は、幼稚園が終わった後に保育園に通い、保育園が終わった後は、ボランティアの保育ママさんや地域の何らかの施設を利用している家庭も相当ある。
小学校低学年の子供は塾が事実上これを引き受けている場合が多い。
これは子供にとっては決して幸せなことではない。
さらに高学年の九〜一O歳ぐらいになると、ゲームセンターへ行って夜中まで遊んでいるというケ−スもみられるようになる。
まさに危険がいっぱいであり、子育ての環境として最悪である。
日本の大都会はそこまで追い込まれているこうした問題に対処するために、「放課後児童クラブ」というのがつくられている。
二OO 85三年五月一日現在、全国に一万三六九八カ所の放課後児童クラブがあり、五六万五七六四人が通っていると言われている。
平均して一カ所四一・三人である。
整備主体は地方自治体で、自治体職員の人件費は結構高いため、職員二人で一二人をみたとしてもかなりの高コストである。
それを地方自治体が費用負担する。
本当は親から実費をもらわないといけないが、ほとんどの自治体は親の費用負担はミニマムということで、おやつ代ぐらいしかもらっていない。
これが皆、地方自治体の財政赤字になっていく。
このほかにも、育児相談や育児サークル活動支援のための地域子育て支援センターや、育児疲れ解消やパ−ト就労対策などのための一時預かりなどの一時保育、日曜、祝日等に保育所を開所して保育をしてくれる休日保育などいろいろなサービスがある。
これらのサービスの多くは、後述する「エンゼル0フラン」というプランで推進されている。
ここで子育て支援の需要と供給がどうなっているかをみておこう。
これまでの話から分かるように、子育て支援サービスの潜在需要は非常に大きい。
先述の幼児数と入所者数の年齢別分布をみると三歳児から入所率が高くなっていた。
これは、日本の社会には01二歳児の乳幼児は家庭で育てるべきだという観念があること、01二歳児の保育はコストが高いため保育所の方でも敬遠することなどの要因による。
従って、フルタイム就業を続けたい、継続して働いてキャリアーを形成したい母親にとっては、一〜二歳児の保育をどうするかが鍵になる。
換言すれば、一〜二歳児の子育て支援の潜在需要は非常に大きいと言える。
一〜二歳児が待機児童全体の六割を占めていることは既にみた通りである。
子育てというのはそのくらい重要な意味を持っているのである。
逆に言えば、大都会で一〜二歳児を保育所に預けられないことがボトルネックになり、働く意欲を持っている多くの女性がキャリアワ−クを続けられないことが、どのぐらい経済の成長を制約していることか。
このように子育ての問題はマクロ経済の大きな問題でもある。
待機児童問題というのはすぐれて大都市の問題である。
二OO三年四月現在、全国で二万六三八三人とされる狭義の待機児童を例にとっても、そのうち東京が五二O八人、神奈川が二九四四人、大阪が三八六三人、兵庫が一八一四人となっており、過半数を占めている。
地方にはそれほど待機児童問題はない。
待機児童数は親が自治体に届け出た数字であり、あくまで氷山の一角にすぎない。
条件の良い公立や社会福祉法人立を希望しながら入れずに無認可保育所に通っている子供は含まれていないが、本当はそれらの子供も待機児童である。
大部分の親は届け出をせず、家族や親族、地元で対応している。
保育所の受け入れ枠が増加すると待機児童数は減るどころかむしろ増加するという事実は何を物語るのか。
「待機児童ゼロ作戦」とは、公表されている狭義の二万六OOO余人の受け入れ枠を増やすことだけではなく、本来、潜在的な待機児童を含む広義の数十万人の待機児童を対象にした話である。
この作戦が成功すれば、日本中の仕事をしたい女性の誰もが心おきなくフルタイムで働ける社会が来る。
そうなれば年金問題も労働力不足も解消し、日本経済が成長する。
繰り返しになるが、公表されている待機児童数は広義の待機児童を示してはいない。
無認可保育所に通う児童数は推定約二O万人だが、実態はさらに多いと言われている。
これらも待機児童予備軍である。
保育所の潜在需要、従って大都市の子育てサービスの潜在需要は非常に大きく、実に大きな社会的問題なのである。
増えたのは完全に小泉政権の「待機児童ゼロ作戦」による。
小泉首相自らが唱えることで初めて増えた。
その前の森前首相も子育て問題については熱心だったが、小泉首相が二OO一年五月に行った初めての施政方針演説で「待機児童ゼロ作戦」を宣言し、子育て支援政策の強化・充実が図られたことが大きかった。
これとは別に、森内閣の時代から「男女共同参画会議」の下に「仕事と子育ての両立支援委員会」が設置され、これら施策の提案作業を行ってきた。
同委員会の提言に基づき、二OO一年七月に以下の五項目について閣議決定がなされた。
戦後の動きを振り返ってみると、一つの矛盾に気付く。
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